『ケーゲル指揮・ライプツィヒ放送交響楽団 / ノーノ:力と光の波のように』

nono_chikara.jpg 第2次大戦後のクラシック音楽界は、激動の時代であったと思います。クラシックの本場であるヨーロッパは隣接する国ごとに対立し、隣人が昨日まで敵国であったというだけでなく、戦争が終わってみれば東西陣営にくっきりと分かれた。同じ陣営であるはずの西側も、ドイツと英仏みたいな国がそんなに昨日今日で仲良く出来るわけもなく。作曲界も、作曲の歴史やメソッド絶たれ、伝達者の多くが死に、情報の共有や、その時点で何が作曲の課題であるのか、こういう根本的なところから立て直さなければならないという状況。そこでヨーロッパ音楽界で中心的役割を果たしたのが、ドイツのダルムシュタットで行われた夏季音楽講習会だったそうです。イタリアの作曲家であるノーノは、初期のダルムシュタットの講習会で指導的役割を果たした人物のひとりです。

 ノーノは共産主義者。現代史を知れば知るほど、大戦後のヨーロッパの資本主義陣営の思想というものは、かつての中国の腐敗した官僚組織を非難する事もおこがましいほどに、腐りきったものに思えてきます。西側は、資本家だけがどんどん得をして、お金のない人や地域は、経済的に奴隷になるしかないという世界支配構造を完成させていきます。そういった流れに歯止めをかけようという思想である共産主義に対して彼らが取った行動は、共産主義というものにマイナスイメージをラベル張りして広める事。これが、ノーノの評判にも災いしてしまっているように思えるのですが…しかし、私は前衛の時代の作曲家の中では、断トツでノーノが好きです。単純に言って、音楽が強いです。理屈ばっかりこねくりまわして、馬鹿みたいな音楽を量産してしまった現代音楽というジャンルの中で(あ、断っておきますが、私は全ての音楽の中で、現代音楽の一部作品が、音楽の中で一番好きなんじゃないかと思っている人物です^^)、音楽の本質を決して見失わなかった人なんじゃないかと。ノーノの作品って、何がしたいのか、これが恐ろしく明確で、そしてそれが音になる瞬間には、ものすごく力強いものになるという感じです。

 「力と光の波のように」は、ノーノの代表作のひとつに数えられる作品です。編成は、ソプラノ、ピアノ、オーケストラ、それに録音テープ。クラスターで叩きつけられるピアノの演奏、何とも言えない独特の音世界を作り上げるテープ、全音域を使い切ったんじゃないかというぐらいの広い音域で蠢く驚異のオーケストラ…背中からゾワッとくるような音楽です。また、なぜこの音楽であるか、こういう理由もしっかりしているように思えます。この音楽はテキストを伴っているんですが、どうにもこれが革命の歌。なるほど、音楽をこれほどまでに強靭なものにしなくてはならない理由というものが、何となく分かったような気がしました。

 この録音ですが、ノーノ自身がケーゲルに録音してくれるように頼んだといわれる、歴史的意味もあるものです。ケーゲルという指揮者は、東ドイツ崩壊とともに拳銃で自殺しています。…どういう事かというと、音楽というものが、音楽という枠の中だけで行われている専門家だけのものではなくて、社会とのかかわりの中で意義を主張し続ける、そういう思いがあったのではないかと。若い頃の僕は、こういう考えが理解できませんでした。音の体験というものは音を聴く人の中にあるわけで、そこに政治的な思惑とかが入ってくるのは見当違いな事なんじゃないか、みたいな考え方ですね。こういう考えは、ある点では的を得ていると思うんですが…じゃ、社会とのかかわりが全くない物が、ある専門分野でどんどん深まっていったとしても、それにどれほどの価値があるのかというと…それって、その分野でしか価値を測ることが出来なくなってしまいますよね。寸分の狂いもなく鉛筆を削る技術があったとして、それだって極めようと思えば、一生かかっても極める事が出来ないぐらいの深いものでしょう。でも、それが人間という机上でどれほどの意味があるかというと…疑問ですよね。音楽だって同じ事で、微に入り細に渡る入れ子細工の作曲を突き進めたとしても、それが人間とどのような関係を結ぶことになるか、ここがなければ、音楽なんて専門バカなだけで、鉛筆削りの達人と大差ないと思うのです。クラシックって、アカデミズム的な面もある音楽なので、専門バカになり易い。しかしノーノというのは、そういう視野の狭いところに落ち込む事なく、全体が見えていたんじゃないかと思うのです。ノーノというのは、社会とのかかわりから測った上で、音楽の位置というものを把握していたんじゃないかと思います。そして、意味ばかりでなく、その音楽自体も、ウェーベルンの徹底した計量的な作曲の延長にあって、専門の中でもトップランナーであった人だったと思います。

 しかし、この音楽を最初に聴いた時は、そういう部分は分かりませんでした。でも、クラスターで炸裂するこの音楽の圧倒的迫力、しかしクラスターでありながら信じられないぐらいに見事に制御されたアレンジの見事さ、こういった神がかった技に圧倒されたのは確かでした。音楽の音響という一面からだけでも、この音楽の魅力が損なわれることなどないと思います。現代音楽の決定的な名作・名演と思います。



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プロでも評論家でもありませんので、たいした事は書けないかも知れませんが、いい音楽、いい映画、いい本などを探している方の参考にでもなれば、大変嬉しく思います(ノ^-^)ノ

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 今月号のintoxicateに載っていた1枚。「Vyacheslav Artyomov」、ロシアの作曲家は名前が読めなくってムズカシイ。。「ヴャチェスラーフ・アルチョーモフ」と読むらしいです。伝説の「フレンニコフの7人」のひとりとの事ですが、それって何かすら僕は知らず(^^;)。作風的には初期は新古典的、後に民族的な様式、十二音技法や、複調性、ミニマルなんかも用いたみたい。ロシアの前衛は強烈なものが多いので、聴いてみたいです。アマゾンで買おうと思ったらダウンロード版しかなかった(;_;)。 少し前に取りあげたエリザベス・コットンですが、ライブ盤なんてあるのか?!これは聴きたい… オスマン時代から現代までのトルコ音楽のガイド本みたいです。おおお~、これは絶対に読もう!! レコ芸に載っていた近藤譲さんの新譜、室内楽作品集みたい。好きな作曲家なんで聴きたいんですが、持っている2枚のALM盤と4曲かぶってるので悩み中…
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