書籍『チャーリー・パーカーの技法』 濱瀬元彦

CharlieParker no Gihou チャーリー・パーカー関係の本をもう一冊。音楽についての重要な専門書って、年に1冊ぐらい出ていると思うんですが、2013年に出版されたこの本も、そうした重要な本のひとつだと思います。この本が出てからしばらくは、炎上といっても良いほど、ネット上に批判があふれてました(^^;)。「自分をアタマ良く見せたいだけ」「パーカーはもっと直感的」「こじつけ」…まあ、ひどい書き込みが色々ありました(^^;)。人間って、匿名だとひどい事を書けるもんだ。でも、こういう誹謗中傷ほどではないとしても、僕にも不安はありました。というのは・・・パーカーやビバップをリスペクトしている人&この人の音楽や過去の著作を知ってる人なら、不安を持っちゃう人も少なくないと思うんですが、実際にはメッチャいい本でした!パーカーに限らず、これに匹敵する管楽器のソロアドリブ分析本が日本にあるかというと、僕は知りません。これだけたくさんのパーカーのアドリブを譜面に起こしたというだけでも、素晴らしい仕事!というわけで、この本って、読まれる以前に変な情報がいっぱい出ていて誤解されているようなので、自分にとってのまとめもかねて、簡単なガイドをしてみようかと(^^)。

 この本は、モダンジャズの創始者チャーリー・パーカーのサックスのアドリブ演奏の分析書です。いまだにチャーリー・パーカーの演奏は難解だと言われる時があります。僕も難しいと思う。。そんなコムズカしいチャーリー・パーカーのアドリブ演奏を、この本では大ざっぱに「装飾音」「リニア・ライン」「Relative Major」「Tonic Major」「Relative Minor」「Tonic minor」の6つに分けて分析してます。でもって、アッポジャトゥーラとかモルデントみたいな装飾音については、この本を読むレベルの人だったら解説しなくても分かると思うので、ここでは省略。リニア・ラインもジャズのリハーモニゼーションをひと通り学んだ人なら解説不要と思うのでここでは省略。というわけで、残る4つ「Relative Major」「Tonic Major」「Relative Minor」「Tonic minor」が、この本の価値という事になるんじゃないかと。

 著者の濱瀬さんは、チャーリー・パーカーのアドリブ演奏を、トニックとドミナントのふたつだけに還元して捉えてます。セカンダリーですら、そう。アメリカ音楽であるスイング時代のジャズは長調と短調のふたつの調しかないので、音楽をトニックとドミナントのふたつだけと捉えると、アドリブの時に問題になるのは「Tonic Major」と「Tonic minor」とドミナント・セブンス・コードだけ。そしてこの本では、ドミナント・コードを「Relative Major」と「Relative minor」のふたつに分けてます。これで、この4つの状況でアドリブ演奏が出来れば、ジャズの曲中では常にアドリブ演奏が出来る事になる・・・これが、この本のおおまかな骨子で、実際チャーリー・パーカーはそうやった、というわけです。おお~分かりやすい、いい本だ(^^)。
 
 次に、なぜチャーリー・パーカーがこういうシステムを作って演奏したかというところ。大昔のジャズの管楽器奏者は、ソロ・アドリブの時にほとんどコードの構成音しか使いません。でも、チャーリー・パーカーは、構成音よりも多くの音をアドリブの中で使いたかった。そこで考えたのが、書かれているコードシンボルには含まれてない音がいっぱい入ってるコードシンボルにめまぐるしく進行させてしまえばいいんじゃね?という発想・・・みたいなことをこの本は言っていて、チャーリー・パーカー自体がそう発言した文献もあるらしいです。例えば、ドミナント・セブンス・コードG7の構成音は、G/B/D/Fで、スケール的な言い方をすれば1度/3/5/♭7。これをダイアトニックから外れすぎない範囲でもっと拡張しようとするならその後の9/11/13も使えればいいわけで、これを含んで、でも不協和に陥らないようなコードシンボルって何かというと・・・強拍に何を持ってくるかとか言うのはさておき、仮にオリジナルのⅤ7に対していうと、Ⅳ△、Ⅱm7、Ⅶφ、なんかがセブンス・コードの時に使える可能性がある、みたいな。そんで、Ⅴ7に対してⅣ△コードを中心としたこの可変的なコード群がRelative Major。これと同じ理屈で、Ⅳmコードを中心とした可変的なコード群がRelative minor、トニックはメジャーがTonic Major、マイナーがTonic minor(この本では、丁寧にナチュラル・マイナー系とメロディック・マイナー系を分けて書いてます^^)。まあ、ざっとこんな感じです。ここさえ分かれば、この本は格段に読みやすくなるんじゃないでしょうか?!あ、そうそう、僕は便宜を図ってドミナント・セブンス・コードをⅤ7と書きましたが、この本にはそうは書いてません。だから、□7というコードシンボルが来たら、その短7度の位置に来るメジャーセブンス・コードがレラティブ・メジャーという事になるのかな?なぜこうするかというと、こうして考えれば、楽曲全体の和声機能をアナリーゼしなくても、またそのセブンスコードがオリジナルであろうがセカンダリーであろうが、セブンスコードに対するアプローチだけでアドリブできるから、じゃないでしょうか(ここは僕の勝手な解釈(^^))。

 まあそんなわけで、部分的な分析と研究が実に素晴らしい本ですが、サラッと書いてある大事な所を読み逃がすと「で、何が言いたいんだっけ」と分からなくなっちゃうことがあって、それが誤解や批判につながってるんじゃないかと思います。でも、上に書いた論旨さえ押さえれば、誤解は避けられるんじゃないかと。あとはチャーリー・パーカー自身のアドリブ演奏を引き合いに出して「このアドリブはこういう風にRelative Major が使われてて・・・」という検証が延々と続いているということなので、この構成さえ分かっていれば、むしろ大変に読みやすい本なんじゃないかと。ビバップを深く研究した事のない僕にとっては、ものすごく為になった本でした。ビバップのソロ・アドリブ演奏をマジメに研究したい人には大推薦!あと、ジャズやロックでアドリブ演奏をする時に、いつもスケールをバラバラ演奏してるだけで、カッコいい音を挟んだり独創的なアドリブラインがどうしても作れないという人には、すごく参考になる本だと思います。これはまちがいなく良書です(^^)。


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