ひとつ前の記事『太陽と戦慄 Larks' Tongues in Aspic』では、その現代の作曲技法とクリムゾンの関係の事を書きました。しかし、この時期のクリムゾンの凄いところは、作曲面だけでなく、即興演奏能力もものすごい!何かで読んだ記憶があるのですが、この時期、キング・クリムゾンのライブでは、インプロヴィゼーションを絶対に何曲か演奏する事にしていたそうで。そしてこの『Starless and Bible Black』は、この時期のクリムゾンのアルバムの中では、もっともインプロヴィゼーション色が強いものです。インプロヴィゼーションといっても、ある曲中でアドリブでソロを演奏するというタイプのものではなく、曲自体をインプロヴァイズしてしまうというもの。フリー・インプロヴィゼーションに近いものですね。しかし、大友良○とかの最近の日本人なんかがやっているような、単なるヘタクソがメチャクチャやっているやつじゃありません。即興とかいって、デタラメな結果でいいんであれば、猫の歩いたピアノだってインプロヴィゼーションだとか言えちゃうと思うんですよ。しかし、クリムゾンはそうはならなくて、フォルムまで相当な精度で塑像されていく見事なもの。そうなるにはちゃんと理由があって、コンセプトがしっかりしているから。例えば、3曲目「We'll Let You Know」では、徹底してホールトーンと呼ばれるスケールでインプロヴィゼーションが押し通されます。しかも、その使われ方が、機能和声のドミナントで使われるとかじゃなくって(ホールトーンというスケールは、ジャズとかの西洋ポピュラー音楽では、普通の長調や短調の曲だと、ドミナントで使われる時がある)、ホールトーン自体が主調。コンセプト自体が明確なだけに、フォルムもしっかりしてくるんじゃないかと思うんですよね。同様の構造は、7曲目「Starless and Bible Black」なんかにも聴くことが出来ます。