
70年代キング・クリムゾンのラスト・アルバムです。音楽の傾向は
『太陽と戦慄』や
『暗黒の世界』と同じですが、その中ではこれが一番ロック色が強いというか、分かり易いアルバムだと思います。前の2作に比べて、非常に音楽面でのバランスが良い。アヴァンギャルドとメインストリームのバランスとか、インプロヴィゼーションとコンポジションのバランスとか。何をやればバンドの音楽が最大に輝くか、2年以上同じメンバーで、ものすごい数のライブパフォーマンスを続けてきた先で、こういうものが見えて来たのではないかと思います。若い頃は、キング・クリムゾンの中でこのアルバムが一番好きでした。
A面をつまらないというロック・ファンはまずいないのではないかと思います。1曲目「RED」なんて、イントロを聴いただけでゾクゾク来ます。それぐらい、A面は良くまとまっています。しかし、クリムゾン的な凄さが凝縮されているのはB面。「PROVIDENCE」は恐らくフリー・インプロヴィゼーションでしょう。ヴァイオリンの奏でる怪しいメロディと、ギターが作り出す色彩感覚が見事。ここにベースとドラムが次第にリズムを作っていき、一瞬にして場面が変わって音楽をトップに持っていきます。また、この押してく感じがロック的というか、他の音楽では味わえないようなダイナミックな感じで、燃えます!!
続く「STARLESS」は、メロトロンというストリング・オーケストラの代替のようなテープ楽器が、実にきれいな雰囲気を作り出すバラード…かと思いきや、これも実に見事な構造が用意されています。まったく対立した主題が用意され、それが変奏されながらクライマックスに近づき、頂点になった瞬間に元テーマが倍速で奏でられる。…楽曲構造に関する、西洋の音楽アカデミズムが作り上げてきた知恵が見事に結晶した名曲だと思います。前曲がインプロヴィゼーションでこの曲がコンポジションという違いこそありながら、劇的構造という意味では全く共通していて、よくぞこれだけの音楽に辿り着いたと思うばかりです。何十回このB面を聴いた事か。
クリムゾンを聴いていた頃、僕はどちらかというとジャズを聴いている事の方が多かったです。でも、ジャズのインプロヴィゼーションって、和声進行のうちで何度もぐるぐる回るアドリブというのが殆どなんですよね。まあ、それでも少しは劇性を持ち込むことは可能なんですが、自ずと限界は知れたもので、ロマン派クラシックのような頂点に向かって行く強い劇性には遠く及ばない。しかしクリムゾンの場合、コンポジションであれインプロヴィゼーションであれ、劇的構造を作りに行った場合のそれは、ジャズを遥かに凌駕しています。しかし、これだけの作品を作り続け、驚くほどの数のライブを続け、疲れ切ってしまったのでしょうか、このアルバムを最後にバンドは解散してしまいます。70年代のキング・クリムゾンというのは、ロックの立場から作り上げられた、最上の芸術音楽だったのではないかと思います。そこには、知性も凶暴性も、美しさも危険さも、こうしたふたつの対立した価値を併せ持つ、実に70年代的な音楽だったのではないでしょうか。。
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