
エリック・ドルフィーの死後、残されていた録音を集めた作品みたいです。しかしこれ…若くして死んだ天才サックス奏者が、まるで自分の死を悟って、自分に向けて奏でた鎮魂歌でもあるかの様な、ゾッとするような感覚を覚えるアルバムです。若い頃に初めて聞いた時には、何とも言えない感動を覚え、悲しいとか嬉しいとか、そういうのではない涙が出てきてしまった。
ライブ録音でない所がミソ。それだけに、ジャズが否応なく持ち合わせる事になってしまう、お客さん相手のエンターテイメント的な側面から完全に逃れています。さらに、他のドルフィーのアルバムと音楽的な傾向がかなり違っていて、ジャズはすでに過去に離れたという感じ。オーソドックスから離れ、まだ誰も歩んでいない地に踏み込んで。こういうところに、ドルフィーという不世出のサックス奏者が、楽器奏者としてではなく、音楽家としてどのような事を考えていたのか、純粋な音楽的な思想みたいなものを感じさせられました。
若い頃に聴いた時の印象は、なんと内省的な音楽か、と思いました。恐らくそれは、アルバムのA面とB面の両方に入っているフルート独奏によるところが大きいのではないかと思います。特に先に入っている「Inner Flight #1」、これがゾッとするような素晴らしさ。まったく熱くなることなく、かといって寡黙というのでもなく、テーマと同じキーで全音階と7音音階を行き来するのですが…なんというか、そういう理屈ではなくって、これが生み出す不思議な音の感覚が、凍りつくような美しさ。もし臨死体験をした時に音楽が聞こえるとしたら、こういう音なんじゃないだろうか。
もうひとつ、冒頭の「Jim Crow」という曲も、既にジャズより先に踏み込んだという感じの音楽です。これぞ音楽。タイトルからすると、これ、ジム・クロウ法と関係あるんでしょうね。しかし、詞が聞き取れないので、そこには触れない事にして(^^;)…ドルフィーはアルトサックス、フルート、バスクラリネットを持ち替えながら演奏。他にテノール、ベース、ピアノが入っていますが、同時に演奏する事はありません。現代音楽のような乾いた響きの作曲部分がこの曲の強い印象で、途中のブリッジで一気にジャズコンボ的なビート音楽になり、最後にまた現代音楽、みたいな感じ。プッスールのシアトリカルな作品を聴いているような感じ。ドルフィーという人の音楽的な意識は、ジャズがどうこうとかいうところには既になかったんでしょうね。
こうして書くと、異色作かと思われがちですが、ウッドベースとアルトサックスにより、モダンジャズのアドリブソロの極めつけのようなデュオも入っています。で、このサックスがもの凄い速さ。。マシンガンですね、こりゃ。
ドルフィーの表に出されていなかった色々な側面が入ったアルバム、これはジャズとかそういうラベリングがむなしくなってしまう、ひとりのアーティストの魂を聴かされるような素晴らしいアルバムだと思います。芸術家に望まれているものの全てに正面から向き合いながら先へと進んでいった、本当に素晴らしいアーティストであったと思います。
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