後者であるドルフィー作曲作を集めたセッションの録音としては、ブルーノートというモダンジャズの名門レーベルから出たドルフィーの作品に『OUT TO LUNCH』というものが有名。2管のクインテットで、ピアノの代わりにヴィブラフォンが入って、評論家も、また日本のジャズミュージシャンも、こぞって名盤なんて言うのですが…バンドの演奏が固すぎです。楽譜を見ながら演奏するので手いっぱいという感じ。クールなんていう人もいますが、そんなんじゃなくって、単にバンドが音楽をものに出来ていないだけだと思います。いや、コンポジションは素晴らしいと思うんですが…そんなに持ち上げるほどのものとは思えない。
では、アンサンブルもので、ドルフィーのコンポジションを活かしたまま演奏しきった録音がないかというと…あるのです!それがこの『IRON MAN』。セッションは大きくふたつに分かれ、ひとつは最大で9重奏にまで膨れ上がるアンサンブル。もうひとつは、ベースのリチャード・デイヴィスとのデュオ。まず、アンサンブルの音楽的な傾向は「OUT TO LUNCH」とまったく同じで、ドルフィーのフレージングがそのままテーマになったような、まるでモンクが書いたような独創性あふれる曲。違いは、そのバンドのグルーブ。「OUT TO LUNCH」であれだけ固かったバンドが、ここでは生きたような素晴らしい演奏を見せます!おお、これは格好いい!!曲のテンポも若干あげ目で、本来はこのぐらいのテンポで演奏されるべき音楽なんだろうな、と思わされました。そして、ドルフィーのソロ。…う~ん、ドルフィーのソロのために作られたような曲なんじゃないかというぐらい、ものすごく生き生きとしています。スタンダードを演奏するときに感じる、ドルフィー独特のフレージングに対する制約みたいなものも、まったく感じません。アンサンブルもので、ドルフィーの狙っていた音楽のひとつが、初めて実を結んだ瞬間だったのではないでしょうか。ピアノレスにして、管楽器アンサンブルに絞り込んだ意図も理解できる気がします。 そして、大編成アンサンブルと対比するように配置された、ベースとのデュオ。これが、音楽の中でもインタープレイによるデュオでしか聴く事の出来ないような、対話的な音楽。向かっている方向も、アンサンブルものに対比させることを意識したかのように、実に美しいところに向かっています。これは素晴らしい。