
日本の伝統音楽を純邦楽なんて呼びます。純邦楽というと、なんだか一種の芸術音楽みたいに感じてしまいますが、その中心にあるのは三味線とか琴みたいな江戸時代の音楽で、けっこう大衆音楽の趣の強い。そんな純邦楽の中で、「これはすごいな」と思わされた音楽が3つあります。ひとつは能楽、ひとつは尺八、そしてもうひとつが琵琶です。いずれも、ちょっと大衆音楽ではない、独特の精神性という背景を持っています。能なんて、神様に捧げられていますしね。
琵琶はアジア一帯に広がっている楽器ですが、日本の琵琶はかなり独特な音楽性を持っています。もともとは他のアジア地域の琵琶楽と似た音楽だったのでしょうが、これが盲僧琵琶という日本の盲いた僧侶が吟遊していた音楽以降、かなりヤバい感じの音楽になったみたいです。今の中国の琵琶を聴くと、フレットはたくさんあるし、ものすごい速いトレモロなど、えらくテクニカル。ところが、日本の琵琶はその真逆で、フレット数はどんどん減り、音数も少なくなり、しかしその1激の音がもの凄い。「ギュジャ~~~~ンン…」という感じです。1音だけでものすごい説得力のある楽器というのは、南アジアの方にあるシタール系の楽器とか、バスクラリネットとか、僕の中では数えるほどしかありません。で、日本の琵琶は、そんな中でもナンバーワンの物凄さなんじゃないかと。
しかし、ひとことで日本の琵琶音楽といっても、種類が色々あるみたいです。先ほどの盲僧琵琶なんて言うのは、それこそ源平合戦の後とかに僧侶が全国を渡り歩きながら流したものなので、今では聞くことが出来ないんだと思います。他にも、平家琵琶なんていうのもあって、これもほぼ絶滅状態だったと思います。というわけで、今残っている日本琵琶の流れは、大きく分けて筑前琵琶と薩摩琵琶のふたつ。で、薩摩琵琶の方は薩摩の武士が修練のために演奏したなんていう歴史的な過程もあるらしくって、それだけに豪壮。楽器自体の大きさも全然違くって、薩摩琵琶の方が大きく、音自体もものすごく野太いです。武満徹の「ノーヴェンバー・ステップス」なんかで使われているのが、薩摩琵琶ですね。筑前琵琶は、薩摩琵琶に比べると小ぶりで、三味線の太棹により近づく感じ。
で、このCDの何がいいかというと、平家琵琶、筑前琵琶、薩摩琵琶のすべての演奏が入っているところです。たぶん、既発のCDのオムニバスなんじゃないかと思います。で、単なる寄せ集めじゃなくって、みな素晴らしい演奏です。日本に生まれて、琵琶音楽を聴かないのはもったいない。これほどのサウンド、他の世界ではちょっと聞く事の出来ない迫力の音楽です!
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