1曲目「Tales of Rumi」が面白いです。ハーモニック・マイナーを使ってるんですが、ハーモニック・マイナーって、当たり前ですがⅤがハーモニック・マイナー・パーフェクト・フィフス・ビロウというスケールになって、これがめっちゃエキゾチック。アルメニアの音楽なんかで好んで使われているイメージがあるんですが、これが独特なので、これを使って曲を書くだけで、曲のキャラがスケールに支配される感じになるんですよね。曲のタイトルの「Rumi」って、イスラムのスーフィズムの旋回舞踊のルーミーじゃないかと思うんですが、あれと同じようにだんだん速くなっていきます。単にジャズを普通にやるわけでないものは、他にもあります。4曲目「Canto」も曲のフォームが見事、同じコーラスを何回か回してオシマイ、なんていう雑な音楽はやりません。5曲目もチベットのオーボエを使った民族色を感じる音楽から、西洋ポピュラー音楽につなぎます。他は美しいジャズバラードで、この本気と弛緩のバランスがこのアルバムの特徴じゃないかと。
レギュラーグループでずっと活動しているわけではないようなので、やっぱり「リードシートを元に合せました」みたいな、悪い意味での産業音楽臭さはあちこちにあるんですが、それでもこの数年後のクインテットよりも相当に意識の高い音楽でした。いちばん大きいのは、ピアノのボボ・ステンソンさん。「The Water Is Wide」のブラッド・メルドーと違って、小手先でなく音楽を表現としにいくので、僕的にはステンソンさんのプレイの方がぜんぜん胸にしみる…3曲目の「Desolation Sound」や4~5曲目なんて、この音楽をものにしたのはロイドさん以上にボボ・ステンソンさんだと感じます。そうそう、ボボ・ステンソンさんは、スウェーデンのジャズマンで、僕が知っている限りではヤン・ガルバレクのアルバムに参加していた人という印象が強く、音を小奇麗にまとめるECMっぽいピアニストという認識でしたが、実際にはかなり表現力のあるレイヤーさんだなと、このCDを通して知りました。すばらしい!