
20世紀前半のクラシック音楽が激動の変換期、前の時代の音楽と現代音楽が交錯します。R.シュトラウスの「
変容」を真ん中とすれば、
マルタンはもう少し現代寄り。そしてこのグラズノフはその逆で、ロマン派寄りの音楽という事になるかと思います。しかし、帝政ロシアがロシア革命という世界史上でも最大規模の市民革命で滅びる瞬間を生きた、まさにロマン派最後の輝きを見せた音楽…僕にはそう思えて仕方がありません。
帝政時代のロシアというのは、ヨーロッパに憧れ、ヨーロッパの後を追っている所があります。またそれを自覚してもいるから、自文化の良さを探して国民楽派みたいなものも出てくる。後追いだからブームがちょっと遅い。ドイツやフランスが音列技法や4度積みの和声に突入しているときに、ロシアではようやくロマン派音楽で良いものを書く作家が出てくるぐらいの状況。しかし、後追いの良さというものもあって…元祖であるヨーロッパ中心地よりも完成度の高いものを作っちゃったりするわけです。更に、厳しい時代に突入していく落日の帝政ロシアという時代背景なんかもあって…ロシアの世紀末ロマン派音楽は、独特の美しさを放つ。
僕にとっては、グラズノフの書いた
「叙情的な詩」(poeme lyrique, Op.12)がまさにそれです。なんという美しさ、なんという叙情性。。10分ほどで終わってしまう短い曲ですが、息をのむ美しさ、息をのむ切なさです。ハードロック、フリージャズ、現代音楽…音楽の極致を辿ってきたと自分では思っていますが、しかしこれらの音楽では、世紀末ロマン派のこの儚さ、この美しさを響かせることは不可能でしょう。
グラズノフという作曲家自体が、いまではもう歴史の中に埋もれかかっているのではないかと思われます。しかし、
ショスタコーヴィチも彼に学んだという、ロシア音楽の中で重要な役割を果たした素晴らしい人です。その代表作として「叙情的な詩」を挙げる人は見た事ありませんが、僕はこの曲が一番好き。それは、グラズノフの作品の中で、というだけでなく、すべてのロマン派音楽の中で、そうなのです。
ロシア世紀末ロマン派音楽の美しい響きは、埋もれてしまうにはあまりに惜しい音楽です。このCDを手に入れた当時、グラズノフの「叙情的な詩」の録音は、日本最大のレコード店でもこれしかありませんでした。NAXOSという廉価レーベルの出したCDなのでちょっと怖かったのですが、そのリスクを冒してでもCDで聴きたかった。そして…これが演奏も録音も意外と素晴らしかった!!クリメッツ指揮、モスクワ交響楽団の演奏、そしてモスクワ映画スタジオでの収録(!)…こういう所にも、色々な背景を感じました。
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