
もうひとつ、
シリアの音楽の紹介を。これは、シリアの色々な音楽ではなくて、アレッポのイスラム宗教音楽です。1975年録音で、原盤はOCORA。
シリアの首都はダマスカスですが、シリア最大の都市はトルコ国境近くにあるアレッポ。このCDの表紙になってるように、
旧市街は巨大な城塞都市になってるみたいです。シリアはシーア派(現政権)もスンニー派(国民の多数派)もいるイスラム国ですが、スンニー派とシーア派で宗教音楽に差があるのか、僕には分かりません。ただ、1日5回の礼拝は同じだし、その時にアザーンによる呼びかけがある事も同じなので、地域差程度の差ぐらいなのかも。
シリアでは、
ムエッズィンという公務員の役職があって(このCDのタイトルにもなってます)、
その役職は1日5回のアザーン(1日5回の礼拝への呼びかけ)を朗誦する事だそうです。。一方、シリアの宗教音楽には膨大な
ナシード(聖歌)があって、これを朗誦するのがムンシドという人々。さらに、
コーランの朗誦を行なうのがカリ。ムエッズィンがムンシドになったり、ムンシドがムエッズィンになったりする事はよくあるらしいのですが、カリはかなりレベルの高い音楽家で、なんといってもコーランとその歌を暗譜しないといけないので、修行も厳しいのだとか。このCDでは、アブダル・ラウーフ・ハッラクがカリです。
さて、このCDに入ってるのは、アザーンがひとつ、
カシダト(朗誦)~
サワラート(祈願)~
ムーワッシャハ(聖歌)の連続コンボがふたつ、単独のムーワッシャハがひとつ、そして最後に
ドゥアー(祈願)が入っています。アザーンはひとつ前に紹介したキングのCDにも入ってましたが、注目はカシダト~サワラート~ムーワッシャハの連続コンボを聴くことのできる2曲じゃないかと。最初は独唱で、独特の歌い回しをしながら預言者の物語を語り、それに続く祈祷で同じ言葉が何度も繰り返され、最後の聖歌では打楽器が入って一転してインテンポになっての斉唱(部分的にコール&レスポンスのような形)になります。3つは切れ目なくつながるのですが、これが見事!静謐な雰囲気から徐々に高揚していき、最後にリズムが入り、聖歌の中でモードがガラッと変わるさまは、宗教音楽とは思えないほどに高度。これは中東の芸術音楽とまったく同じシステムに聴こえるんですが、なるほど音楽家が公務員や聖職者である事が分かります。唄い回しの技術や全員揃ってのモード変更、それにこの長大な詩句とメロディを暗譜しないといけないというのは素人には無理、すごい。。
そして、最後のドゥアー(祈願)。これは、このCDで唯一のカリであるアブダル・ラウーフ・ハッラクのパフォーマンスを聴くことが出来ます。でもこれは、歌というのとは違って、詩の朗読のようです。でも、最後にいきなり皆でユニゾンになって歌ったのは驚いた!残念なのは…アラビア語で何言ってるか分からない(^^;)。。
僕は西アジアの音楽が大好きなので、中東の古典音楽や宗教音楽のCDは、中古盤屋で見つけると間違いなく買っちゃうのです(^^)。音楽が高度であるのはもちろん、それが音楽のための音楽じゃなくて、なにか人間にとって大事なものと密接なかかわりがあるように聴こえてしまうところに惹かれるんです。音楽鑑賞というレベルでなく、聴き終わった後はいつも、人生で大事な事について考えさせられたりして。これは、シリアの宗教音楽を聴くことが出来るだけでなく、神秘主義以外のイスラムの宗教音楽の典型を聴くことが出来る、すばらしいCD だと思いました。アマゾンでもなかなか出ませんが、見つけたら即買いじゃないかと!
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