
バッハの
無伴奏ヴァイオリンを書いたら、無伴奏チェロにも触れないわけにはいきませんね(^^)。
J.S.バッハはクラシックの大作曲家ですが、厳密にいうとバロックはクラシックには数えられないので、クラシックの作曲家ではない、なんて言われる事も。実際のところ、ドイツ音楽が一気に古典派やロマン派へと移っていった時代、バッハは忘れられた作曲家だったそうです。それが再発掘されたのはバッハ全集が発売され、作曲技法の再検証が始まった19世紀。それでもこの
無伴奏チェロ組曲は、カザルスが再発掘するまでは単なる練習曲と思われて忘れられた曲だったそうです。今では第1番のプレリュードはクラシックを聴かない人でも絶対に聴いた事があるほどの有名曲となりましたが、それぐらいカザルスの無伴奏チェロの演奏は、この曲を現代に復活させた決定的な大名演だったというわけですね。
僕にとっての
無伴奏チェロのCD初体験は、実はカザルスではありません。なんといっても録音が古すぎて、買う決心がつかなかったんです(^^;)。だって、36年から39年の録音って、大戦中じゃないですか。今まで買ったそれぐらいの時代のCDって、ブルースの録音で聴いた事があったんですが、楽器の音よりノイズの方が大きくて聴けたもんじゃなかったんです。チェリストの技術だってどんどん進歩するだろうし、カザルスは伝説だけどさすがにいま聴くのはきついんじゃないかなあ…そう思ったのです。ところが、他の人の演奏した無伴奏チェロの全曲録音にピンと来なくて、意を決してカザルスの録音聴いてみると…
戦前録音にしてはメッチャ音が良くっていま聴くにしても問題なし(それどころか、僕は新しい録音のそのCDより、戦前録音のこっちの方が音が良いとすら思ってしまった^^;)、そしてなにより演奏に引き込まれてしまいました。なんなんでしょうかこの魅力…やっぱり伝説の巨匠だわ。
アゴーギクもデュナーミクもかなり強くて、全体的にかなり起伏の激しい演奏です。大有名な1番プレリュードの演奏なんて、勝手に付点をつけてるんじゃないかというぐらい音価が変わって聴こえるレベル。最初はこういうのを表現ではなくてリズム音痴とかピッチ音痴に感じたんですが、10分も聴くうちに、これが表現にしか聴こえなくなったのです。この後、戦前のプレイヤーの演奏を何度か聴く事があったのですが、総じて昔の方が表現がこってりしてるというか、楽譜無視といってもいいぐらいまで自分の楽器表現を優先するものが多い事を知りました。今の方があっさりしていて、テクニカルというかメカニカルというか、うまくは感じるけど軽くもなったのかも…みたいな印象。いやあ、ロマン派あたりまでの音楽に関していえば、戦前の演奏家の演奏の方が好きだなあ。
そして、
録音の影響もあるんでしょうが、音が太い!チェロというより、コントラバスのような音。これで弦楽器の独奏なのに音が寂しいという事がぜんぜんなくなって、むっちゃリッチな音になってます。本当にこんな太い音で演奏してたんだろうか…古い録音でそうなったのだとしたら、怪我の功名ですね(^^)。
友人のチェリストによると、バッハの無伴奏チェロは、比較的演奏しやすい現代のチェロで演奏しても、5番6番あたりとなると高難易度の曲で、プロのチェリストですら一生かけて練習に取り組むぐらいの曲なんだそうです。チェロという楽器に出来る事を引き出しまくった、チェリストにとっては避けては通れない名曲なんでしょうね。そして、カザルスの演奏、今の楽器演奏とは考え方自体がかなり違う気がしますが、聴いていて引き込まれてしまう魔術のような強烈な表現でした。いやあ、これはすごかった!
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