多くの音楽好き青年がそうだったように、僕も若いころにプログレッシブ・ロックにどっぷりハマったのでした。その頃、音楽雑誌でのプログレの扱いはイギリスのバンドの事で、本命ピンク・フロイド、対抗キング・クリムゾン、三番手でイエスぐらいに扱われていた印象。プログレの中でも『狂気』との出会いは比較的早くて、音楽も詞も新鮮。「プログレってダントツに面白い、ピンク・フロイドってすごい」と思ったのでした。例えば詞。「Breathing in the air」では、「all you touch and all you see is all yourlife will ever be」なんて言葉が出てきますが、訳せば「あなたの触るもの見るものすべてがあなたの人生そのものとなるだろう」。それまで「俺はスピードキングだ」とか「乾杯、いま君は人生の」なんてものが歌の詞だとばかり思っていた中坊にとって、まったく新しい世界を開いてくれた音楽だったのでした。
そして、久々に聴いた『狂気』は…実に良かった(^^)。。ギミック部分やシンセのモジュレーション遊びなんかは、さすがに色んな音楽を体験した後で聴くとやっぱり幼稚に感じるというか、あまり面白くありませんでした。でも、残った「ただのポップス」が、メチャクチャに気持ち良かった!「Breathe」や「The Great Gig In The Sky」や「Us and Them」なんて、ロック版サティというか、『アビイ・ロード』B面に匹敵する完成度というか、こんなに良いポップスもないだろうというほどの完成度、本当に心地よかったです(^^)。音楽としてのピンク・フロイドは『神秘』と『ウマグマ』が圧倒的と感じますが、こういう「ちょっと凝った産業ロック」みたいに方針転換した後のフロイドは、あくまでポップスとして聴けば本当にすばらしかった。
逆に言えば、それだけの時間がない時はこのアルバムは聴きません。